田沢の森に眠る『宝』を、次へつなぐための10年

 

田口木材さんへ初めてうかがったのは、2年前の夏。
森林に囲まれたJR田沢湖駅。
樹々が発する光合成したての酸素がすこし濃いように感じられるほど、
夏の空気がしっとりとして涼やかでした。

駅の真裏に見える高い煙突。
創業84年になる田口木材株式会社の、木材を乾燥させるボイラーです。

現在の社長である田口知明さんは、四代目にあたられます。

じっちゃ(おじいさま)が植えてくれた森を活かすこと。
次の世代に残していくこと。

秋田杉の品質を最上に引き出すために『新月伐採』という方法を取り入れている一方、
あと10年で伐期を迎えるという、保有材積全国1位の秋田杉を
海外に向けて販売していくことにも力を尽くされています。

2011年の夏。
森と、家宝(!)をご案内いただきながら、
使命感にあふれたお話をうかがいました。

 

新月伐採の森と家宝

 

2011年 夏

—— いいですね、光が入っていて。とても気持ちいいです。
このあたりは樹齢どれくらいなんですか?

60~80年です。

刈り時(木材資源として伐採する時期)はもうちょっと後です。

 

—— 手前から切っていくんですか?

奥からです。手前で切ってあるのはだいぶ前のものです。

(アゲハの幼虫みたいなのがいました。)

 

—— 植林のときは、どれくらいの大きさの苗木を植えるんですか。

2年から3年の杉です。
夏に植えます。
あまり暑すぎると苗もあまり育たないですね。

 


※ 鳥のさえずり、ぱきっと枝を踏む音がひびきます。

 

—— 新月伐採は秋〜冬に行うんですよね。何月くらいからですか?

10月末くらいからですね。
一番切りやすいのは11月くらいだと思います。

雪が降ると大変なんですよ。伐採して樹高を測らないといけないですから。

 


※ 冬季の厳しい雪の中でも伐採作業は行われる。

 

—— 1本1本トレーサビリティー(追跡可能性)も確認するんですよね。

そうです。ぜんぶ(丸太一本ずつ)番号をふって管理します。
新月伐採の一番のポイントはそこです。
そうしないと、新月伐採です、て言ってしまえばわかんないからね。

 


※ 新月伐採材は、その材に関するデータが埋め込まれたICタグによって管理されている。

 

—— 全部データがあるっていうことですよね。
それが加工した商品についてくると、いいですね。

住宅で、ちょっとやったんですよ。現実的には結構厳しくて。
丸太の状態ではタグをつけられるから、いいんですよ。
でも、製材した板を、なにで管理するか。
柱の梁とかだったら底地がでかいので、何かしらつけられるんですけど。

 

—— それほどロットがないものにICタグとかつけられないですもんね。

 


※丁寧に間伐され、光が入った森は明るく、生き生きとした植物で地面が覆われています。

 

—— 葉枯らし(伐採した材をそのまま山で乾燥させること)を半年されると聞きましたが。

そうです。山から搬出するのが、春先です。
製材してから放り出して、結局1年くらいかかります。

(普通の材は)すぐに製材してそのまま出荷します。
乾燥室で乾燥するんです。
うちは蒸気乾燥なので、まだいいんですけど、
電気乾燥だと、やっぱり木の内部がスカスカになるんです。
それは材の品質にも関係してきますね。
電気では一番の良さであるツヤがなくなってくるんです。

 

—— 新月伐採の材は、曳いたとき(製材したとき)のツヤが違う、
と使用された方がおっしゃってました。

そうですね。やっぱりツヤがね。
天竜木材(静岡県)を見に行ったんですけど、

5年間屋内で天然乾燥すると言ってました。

内装材も構造材もです。
あれはすごいですよ。なかなかできないですよ。
値段も高いですけど。
ツヤがすばらしいんですよ。

 

—— 昔はどこもそうだったんですか?

いやー、どうだったんだろうね。そこまではやってないんじゃない?

 

 

マサカリに刻まれた山への畏敬

 

 

田口木材さんの本社の隣にある別棟に、
かつて伐採に使われていた大きなマサカリが何種類も飾られていました。
これぞ、田口さんいわく『家宝』。
持ち主であった職人さんの名前が彫ってあります。
神酒式[みきしき]と言って、刃の片面に三本の、反対面に四本の線が刻まれています。

伐採時は本来、入山する前に神事を行うものなのですが、
毎回そうはできないので、略儀として刃にそのような印が彫ってあるのだそうです。
昔話の金太郎のマサカリにも彫られているのだといいます。

日本人の先達は、木を切ることは神様から恵みをいただくのだということを、
畏敬の念を持ち、このような風習で敬ったのでしょう。
現在の多くの家のつくり方、生活様式では忘れられているのではないでしょうか。

 

 

—— 戦後まもない頃のものでしょうか?

そうですね。
わたしも会ったことない職人さんなんですけどね。

今も必ず年に1回、冬に神事をやります。
山の恵みに感謝するんです。

昔はみんなそうだと思うんですけど、
材木屋は、山ごと立ち木を買うんですよ。
だから「山師」とか「山かけ」というのは、
自分がいいなと思って買った木がいくらくらいなのか、ということなんですよ。
買ってみて、ああ価値がない、ということもあった。
そういう語源なんですよ。
目利きが必要だったんですよね。

そして3~4ヶ月は山に篭りっぱなしで切ったそうですよ。

 


※ 天然秋田杉の製材は、1週間、職人が刃の入れ方に頭を悩ませることもあったのだとか。

 

昔はうちは主に広葉樹を曳いていたんです。

最近は植林のときは、針葉樹と広葉樹を混ぜて、
混交林ということでやっています。

広葉樹は横に伸びるので、光の隙間ができ、
落葉して腐葉土になるんです。

今の山は針葉樹に偏りすぎている。
しかも間伐が前提になっているので。

間伐しないと光が入らず真っ暗。
葉が重なるほどびっしりになってしまっている。

 

—— それが秋田の多くの森の風景になってしまっていますよね。

そう。それが一見、豊かなように見えるんだけど、非常に不自然なんですよね。
だから植物も動物も生きられない「緑の砂漠」と言われています。

 

 

(続きます)