田沢の森に眠る『宝』を、次へつなぐための10年

 

田口木材さんへ初めてうかがったのは、2年前の夏。

森林に囲まれたJR田沢湖駅。
樹々が発する光合成したての酸素がすこし濃いように感じられるほど、
夏の空気がしっとりとして涼やかでした。

駅の真裏に見える高い煙突。
創業84年になる田口木材株式会社の、木材を乾燥させるボイラーです。

現在の社長である田口知明さんは、四代目にあたられます。

じっちゃ(おじいさま)が植えてくれた森を活かすこと。
次の世代に残していくこと。

秋田杉の品質を最上に引き出すために『新月伐採』という方法を取り入れている一方、
あと10年で伐期を迎えるという、保有材積全国1位の秋田杉を
海外に向けて販売していくことにも力を尽くされています。

 

自分たちがやっていることを、きちんと伝えること

 


※ 隣接するガラス張り(※写真奥)の建物は、あきた新幹線「こまち」も停車するJR田沢湖駅。

 

—— 田口さんは、自社の経営の他に地域のいろいろな活動にも関わっていらっしゃいますよね?

そうですね。
以前、仙北市の将来ビジョン策定に関わったことがあるんです。
将来のためには、現状認識がわからないといけないと、
そのときいろいろ調べたんですよ。

ショックだったのは、仙北市の農家はほとんど赤字だということです。
それを補填するために、建設業とかに日雇いで行ってるわけですよ。

要は、田んぼを辞めれば生活がよくなるはずなんですよ。
田んぼがあるから逆に持ち出ししてる。
仙北市って平均年収170万円で、秋田県内で下から3番目か4番目なんですよ。
おかしくないか?という話になったんですよ。
これだけの観光地で、温泉あって湖があってスキー場あって。

 

 

農業が厳しいんです。
先祖代々残してもらった土地だから、
春になれば「田植えしねばねぇな」、秋になれば「稲刈りしねばねぇな」、 と
中途半端な規模でもやってるんですよ。
結局は、農協からそれぞれに機械を買って、償却が間に合わないわけですよ。

それ、誰もわかってねえよ?
「われの食う分だけだからな」と言いながら、持ち出ししてるんですよ。

秋田県の農業に携わってる人は、多分ほとんどが採算が合ってない。
だから後継者がいないし、「お前やれな」って言えない。
「こんな苦労はさせたくない」となってしまう。

それを知っておれはショックでしたよ。「マジで!?」って。
農業がさかんな県なのにおかしいですよね。

気づいた若い衆が「おかしくねえか!?」て
売値を上げる努力をしていかないと。

この前テレビでたまたま若い衆4人?を見てね。
トラ・・・なんとかって。

 

—— あ、トラ男ですね。

そうそう!どうなんですか?

 

 

—— すっごく頑張ってますよ。プロデューサーの武田くんも、若手の農家さんも。
昨年(2010年)の米は全部売り切れて、今年(2011年)からはかなり取り扱い量を増やしています。
農家さんには農協に出す分とは別に寄せておいてもらって、主に首都圏で販売しています。

そういうことだと思うんですよね。
ちゃんと、自分たちがやってることを消費者に伝えて、
自分たちのやってることはこれくらいお金がかかるんだけど、
どうですか?って。

それに価値を見出す人に買っていただいたらいいじゃないですか?
それが高いという人は、量販店で安いものを買えばいいのだし。

価格の満足度はあくまでもお客さんが決めることで。
ただ、少なくとも情報を出さないと、
誰がどんなかたちで作ってるかわかんないもんね。
あれ見てて正解だな、って。

 

じっちゃから受け継いだ『循環する宝』を、未来へ

 

 

自社保有林は、手前はほとんど切っちゃったんですけど、
山の奥の方が、ここ10年くらいで伐期を迎えるんです。

森林資源というのは、だまっていても育つんです。
使っても使わなくても。

でも、これを使わないと、次に循環していかないわけです。

これは、うちらが作ったものじゃなくて
先代の人たちが作ってくれた環境なので、自分たちが次にどう残すのか。
ハゲ山にして残すのか。それともただの緑にして残すのか。

切りっぱなしかよ、って。
責任世代だと思うので。こらへんを考えていかないとね。

ただ、キレイ事だけでもできないので、
事業にして、雇用も生んで、
外貨も稼いで地元に落とせるかたちになれば、一番いい話ですよね。

そうすれば、おじいちゃんありがとうね、
という孫もいるんだろうな、と思うんですよね。

 

 

—— やっぱり地域内資本の事業を増やさないといけないですよね。再生可能エネルギーの1つとして森林資源も注目されていますが。

森林資源に限らず、チャンスですよ、すごい。
田沢湖なんて自然エネルギーの宝庫だもの!
風は強いし、水はよけいあるし、温泉はあるし。
災害もほとんどないんですよ。台風もみんな温帯低気圧になるし。
夏はエアコン要らないし。
冬は、寒いけど…(笑)

 

—— ホント、そうですね(笑)

こういうところに、IT企業とかに来てもらうといいんですよね。
ちょっと疲れたら温泉さすぐ行けばいいべ、って。
いい環境だと思うんですけどね。
秋田県全体がそうじゃないですか。

木質ペレットも行政の協力があればできそうですけど、
民間でゼロからというと現時的には難しい感じがしています。
田沢湖の温泉街などで、ある程度まとまった規模で導入してくれれば、
家庭に向けてもやりやすいんだけどね。

 


※ いつも明るく、地域や森への熱意に溢れている田口知明社長。

 

—— なるほど。

まずいですよ、今のままでは。ほんっとにまずい。
そういうことをみんな自覚していかないといけない。
「それでいいんじゃない」
という無責任な人がいればそれは由々しき問題です。

今の環境は自分たちだけじゃなくて、
次世代に残さなきゃいけないんだという、そこの意識がまだ薄いのかな、って。
ただ目先の合理性だけではダメ。もうそういう時代じゃないでしょ。

でも、やっぱりお金のかかることは
ちゃんとお金を生み出すシステムを作っていかないとならない。

がんばりますよ!というか、がんばりましょう!!

 

—— はい!引き続きよろしくお願いします!

 

(完)